東奥日報社が文化、芸術、産業など各分野で傑出した業績を上げ、本県の発展に貢献した個人・団体に贈る第69回東奥賞が決まった。今年はアテネ、北京、ロンドンに続き、リオデジャネイロ五輪のレスリング女子で4連覇を達成、県人として初の国民栄誉賞に輝いた伊調馨(かおり)さん(32歳、八戸市出身)に東奥賞特別大賞を贈る。伊調さんはこれまでに、東奥賞(2004年)、東奥スポーツ賞特別顕彰(08年)、東奥賞特別賞(12年)を受けている。またリオ五輪のレスリング男子・グレコローマンで銀メダルを獲得した太田忍さん(22歳、五戸町出身)、革新的な小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」を開発した藤野道格(みちまさ)さん(56歳、弘前高-東大出)、水田を巨大なキャンバスに見立て、色の違う稲で絵を描く「田舎館村『田んぼアート』」、国内でただ一人の漆掻(か)き用具鍛冶師として全国の職人に道具を提供し続ける中畑文利さん(73歳、田子町)に東奥賞を贈る。贈呈式は12月3日午前11時から、青森市の青森国際ホテルで行う。
漆掻き用具鍛冶師 中畑文利さん(田子)/熟練の技 漆文化支える
中畑文利さんが製作する漆掻(か)き用具は、高品質の漆生産で有名な岩手県二戸市浄法寺町をはじめ、日本中の漆掻き職人が愛用する。中畑さんはその鍛冶技術で、日本の漆文化を支える唯一無二、代わりがいない存在だ。
7人きょうだいの長男。中畑さんと同様に漆掻き用具製作の国選定保存技術保持者だった父・長次郎さん=故人=を師匠に、中学時代に修業を始める。「父には教えてもらったことがない。見て覚えるのが基本だった」と振り返る。
中畑さんが作る漆掻き用具には、漆の木の皮をむく「カマ」、木の傷から出る樹液をすくい取る「ヘラ」などさまざまあるが、中でも最も重要なのが木に傷を付ける「カンナ」だ。刃は二股に分かれ、その一方は彫刻刀のような独特な形。作るには中畑さんの熟練した技が必要だ。
「カンナは掻き子(漆掻き職人)ごとに刃の形などに好みがある。漆の木が若いのか、年数がたったものなのかでも刃は微妙に異なる。掻き子の意見、注文を聞き、微調整を繰り返す」。顧客と顔を合わせ、要望に真摯(しんし)に向き合う。そうして作り上げられた漆掻き用具は掻き子の「手」となり、愛着を持って使ってもらえるという。
8年前から骨髄性白血病と闘っている。緑内障で入院中の血液検査で病気が分かった。「自分がいなくなれば、漆掻き用具がなくなる」という思いが頭をもたげたころだった。
抗がん剤治療を受け、体調と相談しながら仕事をこなす日々が続いた。昨年からようやく体調は回復したが、盛岡市への毎月の通院は欠かさない。
闘病生活を支えてくれたのは、今年で結婚40年目を迎えた妻和子さん(63)。鍛冶の仕事はずっと二人三脚だった。中畑さんと和子さんは息を合わせ槌(つち)を振るい、炉の炭火で真っ赤に焼いた鉄を鍛える。「父と母もそうだった。2人で一人前みたいなもの」と中畑さんは感謝を口にする。
ここ数年、中畑さんの頭を悩ませているのは後継者づくり。これまでに弟子を2人取ったが、いずれも体調を崩し辞めてしまった。昨年12月、町が地域おこし協力隊員として採用した弘前市の男性を新たな弟子に迎え、技術を伝えている。
キン、カン、キン、カン-。「鍛冶師は自分に与えられた仕事。体が続く限り続けたい」。中畑さんはきょうも、田子町中心部の住宅街にある小さな工房で、鉄を鍛える槌音を響かせる。