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人はどのように鉄を作ってきたか 永田和宏

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人はどのように鉄を作ってきたか
4000年の歴史と製鉄の原理
永田和宏

人類は鉄によって文明を作り、文化を創造してきた。数千年にわたり、人類が営々と積み上げてきた製鉄の歴史と、その技術を振り返る。
http://bluebacks.kodansha.co.jp/intro/233/

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インドのデリー市郊外の世界遺産クトゥブ・ミナールに、紀元4世紀に仏教国のグプタ朝期に建てられた鉄柱がある。直径42㎝、高さ地上7・2m、重さ約7tで約1mは地中に埋まっていると言われている。鉄の純度は99・72%で、約1600年経つがほとんど錆びが進行していない。このような大きな鉄の構造物を作った当時の技術は、どのようなものであったであろうか?
 一方、我が国では、1400年前に建てられた法隆寺の修理の際、和釘が見つかっている。その和釘の表面は黒錆びで覆われているが、錆びは進行しておらず、曲がりさえ直せば再度使えると言われている。1779年に作られた英国のアイアンブリッジや、1889年に完成したフランスのエッフェル塔も健在で、これらは前近代的製鉄法で製造された銑鉄(せんてつ)や錬鉄(れんてつ)でできている。
 現代の製鉄では巨大な溶鉱炉で銑鉄を作り、転炉で酸素を吹き付けて脱炭を行い、炭素濃度の低い溶けた鋼(こう)にする。それを連続鋳造機で連続的に凝固させ、鋼の板や棒、角材などを大量に製造している。そしてこれらの材料から橋や鉄道、ビルの鉄骨など大きな構造物を安価に作っている。しかし、古代や前近代的製鉄法で作られた鋼と比べると錆び易く、純度の高い鋼でも現代の鋼は50年程度で朽ちてしまうと言われている。
 鉄は、溶かして再利用できる、リサイクルし易い材料である。我が国では野鍛冶と呼ばれる職人が農家を回り、庭先で即席の鍛冶炉を作って農具を修理し、集めた古鉄を再溶解して新たに材料を作っていた。現代ではスクラップを集め、電気炉で溶解し製品を作っている。古代や前近代的製鉄の時代は、炭素の少ない鋼と多い銑鉄の2系統で完全に回収されていた。現代では多種多様な合金が開発されたため、回収系統は複雑になり、最終的には廃棄されている。
 現代の製鉄法と、前近代的製鉄法や古代の製鉄法は、何が異なっているのであろうか?
 現代は鉄を作る原理的な条件は明らかになっており、この原理は時代を問わず普遍的に成り立つ。一方、古代や前近代の職人はこの原理が分からなくても、現代の私たちが知っている温度や圧力などの概念はなくても、実際に鉄の製品や構造物を製造していた。製鉄の普遍的な原理を満たしていなければ、製造することはできないはずである。しかも、現代とは全く異なった性質の鉄が作られていた。何か私たちが見落としている原理があるのではないだろうか?
 古代や前近代の製鉄技術はすでに失われており、復元も実験的にはいくつかなされているが、これらから普遍的な原理を導き出した研究はない。前近代的製鉄や古代の製鉄は現在行われておらず、すでに死んだ技術として研究の対象にはされてこなかった。死んだ技術には研究する価値はないのであろうか? 著者は、現代と全く異なった性質を持つ過去の鉄に興味を持ち、これを解明して新しい製鉄法と新しい鉄鋼材料の開発を行うべく研究を行ってきた。
 過去の技術はすでに失われて久しい。技術の詳細を伝える文献もない。本来、技術は「見て覚えろ、盗め」という暗黙知による伝承の世界である。しかし幸いなことに、我が国にはおよそ1500年前から行われてきた前近代的製鉄法である「たたら製鉄」と、それから作られる玉鋼(たまはがね)を用いた日本刀を作る鍛冶技術が継承され、現在も操業されている。これらの技術は人から人に伝えられる間に少しずつ異なってきているが、理論的な原理に従う技術だけが体験的に伝えられてきているはずである。
 著者はそれらの技術を体験し、その普遍的な原理を解明してきた。それらの技術を体験する中で、鉄が溶ける時に必ず「沸き花」と呼ぶ白い火花が炎中に現れることを発見した。鉄が溶ければ大きな塊にできる。古代や前近代の職人は製造においても、この「沸き花」を指標にしていたに違いない。「沸き花」とは何であろうか? それは製鉄や鍛冶において、科学的に普遍的な現象でなくてはならない。その現象を科学的に解明し、普遍的な原理を導き出す。その原理を基に考古学で明らかにされているデータから、4000年にわたって、人がどのようにして鉄を作ってきたのかを探究してみよう。

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