神戸新聞NEXT(9月6日配信)
包丁に鉋、鎌、はさみ-。店内に地元十数社の製品を手に取って購入できるコーナーを設けた三寿ゞ刃物製作所の宮脇大和さん=三木市本町2
包丁に鉋、鎌、はさみ-。店内に地元十数社の製品を手に取って購入できるコーナーを設けた三寿ゞ刃物製作所の宮脇大和さん=三木市本町2
兵庫県三木市の「三木金物」は、産地として400年以上のときを刻んできた。大工道具を中心に高品質で評価されてきたが、海外の廉価品が台頭し、後継者不足も進むなど苦境も指摘される。が、近年は欧米向けに高級品の売り上げが伸び、複数の職人が共同で販路開拓に乗り出すなど新たな動きが広がっているという。(佐伯竜一)
【動画】昔ながらの“鍛冶屋” 三木金物を一本ずつ鍛える職人技
http://www.kobe-np.co.jp/rentoku/movie/part01/201509/0008370777.shtml
https://www.youtube.com/watch?v=3X1HOsue--A
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薄暗い作業場で、鋼の塊が真っ赤な光を放つ。「カン、カン」。ベルトハンマーで打つ合間に、汗みずくの職人が巧みに鋼の向きを変え、見る間に包丁の形に仕上げる。手作業で一本ずつ鍛える昔ながらの“鍛冶屋”の風景だ。
同市別所町の田中一之刃物製作所。鉄と鋼を合わせて鍛える「鍛接(たんせつ)」が独特の硬さと粘りを生む。品種により市場では5万~10万円台にもなるが、欧米の料理人を中心にリピーターが増えた。「数人の小所帯なので、作りが追いつかない」と、田中誠貴代表(38)は話す。
三木商工会議所によると、三木金物の出荷額は1991年の639億円をピークに約20年で34%も減少。本格的な和風建築の減少や中国などの安い輸入品の攻勢が響いたとみられる。この間に職人の高齢化も進み、従業者と事業所はそれぞれ28%、43%減った。
ただ、ここ数年で出荷額は「下げ止まっている」と、掘井陽彦事務局長(63)。東日本大震災の復興需要などに加え、欧米を中心に本格志向の包丁や園芸用品、農機具が評価され「輸出が復調した」ためだ。輸出額は85年(119億円)を境に下落してきたが、2014年は41億円と11年比で17%伸びた。
その端緒となったのが、三木金物の魅力を広く伝えるサイトの登場だ。地元メーカーが09年に開設した「みきかじや村」で、大工・農園芸道具の使い方や業界の職人たちの横顔を紹介。サイト内のオンラインショップでは、鋸(のこぎり)や鑿(のみ)、鉋(かんな)、鏝(こて)など多彩に扱う。当初、サイトに参画したのは数社だったが、産地ならではの品ぞろえと高品質で売り上げを伸ばし、現在は約30社が関わる。ネットの発信力も、海外への販路開拓につながった。
昨年5月には、オンラインショップの実店舗も生まれた。
同市の旧市街地にたたずむ三寿ゞ(みすず)刃物製作所(本町2)。築140年ほどの趣深い建物に、十数社の逸品を展示するコーナーがある。包丁に鉋、鎌、はさみなど約150種を並べ、その場で手に取って購入できる。
市内で複数メーカーの金物が買えるのは、地元の「道の駅」ぐらいだった。同製作所の宮脇大和店主(47)は「三木城跡などを観光した帰りに寄る人が増えている。刃物研ぎを体験する人もいます」とほほえむ。
これまで産地では、こだわりの強い職人が会社の垣根を越えて、手を携えることは少なかったという。
三木工業協同組合の友定道介理事長(53)=玉鳥(ぎょくちょう)産業社長=は「ひと昔前なら職人同士が一緒に動く雰囲気はなかったが、業界の未来に対する危機感がある」と指摘。今では販売だけでなく、複数の企業が製品を共同開発する動きもある。友定理事長は「品質を広く伝えるべく、いろんな方向から業界を盛り上げたい」と意気込む。
三木金物 産地が形成されたのは16世紀後半。羽柴秀吉の三木城攻めで周辺が焼け野原になり、復興を担う大工と、道具を供給する鍛冶職人が集まり、製造の基盤が築かれた。大工用だけでなく、園芸用、調理用など幅広い。96年、通商産業省(現経済産業省)は「播州三木打(みきうち)刃物」として伝統的工芸品に指定した。