2018.2.9 静岡新聞
来年生誕500年の節目を迎える静岡県ゆかりの戦国武将今川義元の愛刀で、国の重要文化財「義元左文字」を作刀当初の姿でよみがえらせる取り組みが、富士市の刀鍛冶、内田義基さん(48)らの手で始まった。富士宮市にある内田さんの作業場に8日、昨年の大河ドラマで義元役を演じた静岡市出身の落語家春風亭昇太さん(58)が訪れ、始まりのつち入れ式を行った。
義元左文字は桶狭間の戦いで義元が討たれた際、織田信長の手に渡り、太刀を磨いて短くし、腰に差す打ち刀とした。その後は豊臣秀吉、徳川家康と天下人に継承され、明治期に徳川家から京都市の建勲神社に奉納され、現在に至る。
復元プロジェクトは内田さんの知人で、富士宮市の会社員佐野翔平さん(27)が「義元の功績を若い世代にも広めるきっかけに」と発案。現存の刃長は67センチだが、義元が愛した2尺6寸(約80センチ)の太刀を打つ。つばなどの外装品は、東京都の刀鍛冶、水木良光さん(35)が制作する。名誉顧問には今川氏の研究で知られる小和田哲男静岡大名誉教授が就いた。
内田さんは「字は違うが、自分と同じ名の義元公は憧れの存在。史料が少なく容易ではないが、心を込めて作りたい」と話し、プロジェクト名誉会長を務める昇太さんは「信長に奪われた名刀の魂だけでも静岡に取り戻したい」と待ちわびる。
刀剣を擬人化したオンラインゲーム「刀剣乱舞」の影響で、若い世代の刀剣ファンが急増している。同ゲームには義元左文字も「宗三左文字」の名で登場する。太刀の復元は、来年5月の完成を目指し、県内の義元ゆかりの場所に奉納することを検討している。
<メモ>義元左文字(よしもとさもんじ) 約620~680年前の南北朝時代、筑前国(現在の福岡県)で作刀された。戦国武将三好政長(宗三)が所持し、宗三左文字や三好左文字とも呼ばれる。武田信虎を経て今川義元に伝わった。後に手にした徳川家康は、大阪の陣で帯刀したとされる。1657年の明暦の大火で火をかぶって再刃された。太刀当初の姿はとどめない。