2018.3.18 神戸新聞NEXT
「竹中大工道具館」でガイドのこつを学ぶ新人の通訳案内士たち=2月17日、神戸市中央区熊内町7
改正通訳案内士法が1月に施行され、国家資格がなくても有料で訪日外国人旅行者向けの通訳ガイドができるようになった。訪日客の急増を受け、政府が従来の資格制度を残した上で踏み切った規制緩和。観光業界は「ガイド不足が解消され、おもてなし向上につながる」と歓迎する。ただ資格が形骸化する可能性もあり、関係者からはガイドの質低下を懸念する声も上がる。(末永陽子)
「外国人観光客はゆっくり歩く人が多い。ペースを合わせて」「ガイドブックにない情報も伝えると、喜ばれます」
2月中旬、通訳案内士の資格を取得したばかりの新人を対象とした研修が、神戸市内で開かれた。17人が同市中央区の竹中大工道具館や北野・異人館街などを訪れ、ベテランガイドから案内のこつを学んだ。
企画したのは関西通訳・ガイド協会(KIGA、大阪市)。英語をはじめ、中国語や韓国語、フランス語などに対応できる約320人が所属する。語学力に加え知識を広げる研修や勉強会を頻繁に開き、会員の技術向上に力を入れる。
神戸研修の講師を務めた土井道子さん(70)=宝塚市=は30年ほど前に資格を取得。関西を中心に約10年間、通訳ガイドを続けてきた。法改正から2カ月がたったが、今のところ影響は感じないという。
近年は特定の店に連れて行って手数料を取る悪質な無資格ガイドの横行が問題となっていた。土井さんは「ライバルが増えるのは脅威だが、有資格者を求める旅行会社や観光客も多い。今後もプロとして喜ばれる仕事をしたい」と話す。
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訪日客の誘致で苦戦が続く兵庫県内でも、通訳ガイドの充実は急務だ。
観光庁によると、2016年に国内に宿泊した外国人は約7千万人で、過去最多を記録。15年比で大阪府は11・6%増だったが、兵庫県は7・2%減った。日本観光振興協会(東京)は「外国人を呼び込むためにも、多くの通訳ガイドが必要」と強調する。
通訳案内士の資格保有者約2万3千人(17年4月時点)のうち、対応できる言語は英語が約7割。さらに約6割が東京や大阪など大都市在住など、数の不足に加えてニーズとのミスマッチもあり、政府は今回の規制緩和に踏み切った。
一方で資格保有者にも配慮する。観光庁は仲介業者の登録制を導入し、有資格者に優先的に仕事を回すよう業者に指導するなど、資格を持たないガイドとの区別を図っていく。
姫路市内の60代男性は10年以上、通訳ガイドを務める。「資格なしで質は担保できるのか」と懸念を口にした上で「有名な観光地だけでなく、旧市営モノレール跡や福崎町にあるかっぱの像などを希望する訪日客も目立つ。求められているのは地域に精通した質の高いガイド」と力を込めた。