郷土刀 後世へつなぐ試み
室町時代末期から幕末まで恩方地区などで作られていた「下原刀」を高尾山に奉納するプロジェクトが立ち上がった。3年前に下原刀を復活させた市内在住の刀匠・佐藤利美さん(73)が協力する。原料となる砂鉄を市民が採取し、地元の材料と技術で作る「オール八王子」の刀として次世代に文化を残す試みだ。
企画を立てたのは「平成の下原刀を高尾山に奉納する会」。会長で飲食店を経営する磯沼孝さん(小比企町在住)は、居合道をたしなんでおり、知人の紹介で上恩方町に工房を構える刀匠の佐藤さんと出会った。「市制100周年が歴史を振り返るきっかけになった。平成の年号のうちに、現在の八王子が復活させた郷土刀を後世に残したい」と企画が始動した。
20年かけて復活
下原刀は、恩方、横川、元八王子などで活躍した刀工集団「下原鍛冶」が浅川の砂鉄から作った刀。市の有形文化財にもなっている。「下原」はその一帯の古称。下原鍛冶は北條氏が後ろ盾となり、のちに徳川家の御用鍛冶となったという。下原刀は「折れず、曲がらず、よく斬れる」と実用的な上、渦巻き状の美しい波紋も特徴だという。工房を構えた縁から、佐藤さんが一度途絶えた下原刀を20年かけて復活させたのは3年前。資料の乏しい中、素材集めから研究を重ねた。恩方一帯で作られたことについて佐藤さんは「刀の元になる砂鉄、炉を作る粘土、熱を生み出す木材の3つの条件がそろっていたから」と話す。
ほぼ「八王子産」
「郷土刀」ともいうべき下原刀を、八王子のシンボル的な存在である高尾山に奉納することで、古刀を復活させた現在の八王子の技術を後世に伝えようとするこの企画。砂鉄のほか、火を熾す炭や、鞘、柄と刃物の接続部分など、刀にまつわる部分のほとんどが「八王子産」となるという。それ以外に欠くことができない要素が「市民参加」。会では現在、市内で3月18日(日)に予定している砂鉄採取のボランティアを募集している。今後、「たたら製鉄」や「鍛錬」見学によって下原刀が作られる一連の様子を知ってもらう機会も設ける。
磯沼さんは「刀剣愛好家には認知度も高い刀。八王子に郷土刀があった歴史を知ってほしい」と話す。
問い合わせは同会事務局(【メール】info@jpcom27.com)へ。