日経トレンディネット2017年01月03日配信
榎並刃物製作所
堺の打刃物は1本1本鋼を切って、鉄に打ちつけて鍛造する。炉の温度が低ければ一体にならず、高ければ脱炭して使い物にならなくなる。火入れを繰り返すと包丁は鋼がダメになるので、1回で伸ばし切る。まさに職人技だ。
【Data】堺市堺区九間町西2-2-25 ※事前予約(TEL:072・233・0217)にて見学可 定休日:日曜・祝日 料金:無料
鎚でたたくと鍛接剤が火花となって飛び散り、真空になって鉄と鋼がくっつく
炉で鉄を焼く
鉄に鋼を載せ、さらに焼いてたたく
鍛造から幾つもの工程の後、研ぎ職人、柄付け職人の手を経て完成に至る
製造現場を見学させてもらった堺打刃物は、伝統的に火造り(鍛冶)、研ぎ、柄付けを分業制で作る。「専門職で分業する仕組みも、古墳の築造で培われたものといわれています。非常に合理的だったため、鉄砲の大量生産も実現した。一部の職人を引き抜いてもよそでは作れないから、製造技術が流出することもなかったのです」(堺観光ボランティア協会理事の川上浩さん)。鍛冶師の工房が多い阪堺線沿線では、今も商店や住宅の並びから鎚(つち)の音が聞こえてくる。この町ならではの音の情景だ。
一方、鉄砲作りで培われた鉄加工技術は、明治以降の自転車製造につながり、産業を支えた。現在も国産自転車・部品製造のシェア6割を誇る、自転車の町だ。観光の足として、1日300円で駅や観光地6カ所で自転車を何度でも貸し出し・返却できる、コミュニティサイクルの整備も進んでいる。
古墳築造から連綿とつながる技術が、モノ作りの背骨となった。堺は今、その百舌鳥(もず)古墳群の世界遺産登録を目指している。