産経新聞 7月31日配信
【甲信越ある記】新潟・三条市マルナオ 人気の高級箸作り、自由に見学
見渡すかぎりの田んぼが広がり、やや遠くに神の山として古くから崇敬を集める弥彦山が鎮座する。「オープンファクトリー」と名付けられ、自由に見学できるマルナオの工場は三条市郊外の小高い山の裾にある。余分な騒音は聞こえてこない。ものづくりに集中できる場で職人が仕上げる高級箸(はし)は引き合いが多く、一時は納品まで3カ月待ちとなった。
マルナオの前身は、3代目社長の福田隆宏さん(43)の祖父が昭和14年に立ち上げた木工業の会社。主力製品は、材木に直線を正確に引くために使う大工道具の墨つぼ車だった。平成18年に後を継いだ福田さんは、大工道具を事業の柱に据え続けることに危機感を覚えたという。
「ワインラックや木べら、木製の時計など、いろいろ試作しました」と振り返る。そして、大工道具用に使ってきた黒檀(こくたん)や紫檀(したん)の材質の硬さを、箸に生かすことを思いつく。箸の先端は細ければ細いほど口に入れても邪魔にならない
先端の直径を1.5ミリに削り込みながら八角形に仕上げる困難な作業に挑んだ。先端が面だと食べ物がつかみやすいからだ。「値付けすれば高額になるが気にしなかった。世の中にない心地よい箸を作りたかった」。受け継いできた大工道具づくりの技術が存分に生かされた。大手百貨店のバイヤーの目に留まり、東京の店舗で販売が始まると、想定を上回るほど売れ、人気に火が付いた。
1年半前に町なかから移転し、見学できる工場と直営店を併設した新社屋を建てた。工場の入り口側にある通路は、会社の歴史や製造工程を紹介するギャラリーとなっている。ここからガラス越しに、職人の邪魔をすることなく工場内の見学もできる仕組みだ。職人たちは材料を切り出して加工、研磨した上で、ベルト状のやすりで精密に仕上げていく。
直営店には限定品も含めた商品が見やすく、おしゃれに配置され、購入意欲をそそる。「購入を目的に工場の見学に来られる人も多い」といい、直営店の販売は売上高全体の1割強を占める。
欧州など海外の見本市にも積極的に出品している。「世界のどこに行っても『世界一、口当たりのいい箸はマルナオだね』と言われたい」(福田さん)。目指すのは箸の世界トップメーカーだ。(村山雅弥)
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■オープンファクトリーの見学は月~土曜の午前9時~午後5時半で、日曜・祝日などは休業。直営店の営業は午前10時~午後7時、年末年始を除いて無休。売れ筋商品は「極上 十六角箸」(税別1万4000円)。このほか「逸品箸 スコーピオン」(5万円)、「特上 八角箸」(8000円)、「上箸 八角箸 黒檀」(2900円)など。