2016/7/12(日本経済新聞)
宮崎県えびの市にある島内(しまうち)地下式横穴墓群で、昨年出土した鉄製の鍛冶道具に銀象嵌(ぞうがん)の模様があることが12日、分かった。元興寺文化財研究所(奈良市)などが同日発表した。当時の象嵌は大半が大刀の装飾に使われており、鍛冶道具では全国初の発見という。
139号墓(6世紀前半)で見つかったペンチ形工具「鉄鉗(かなはし)」(全長約15センチ)とノミ状工具(同約20センチ)に波形文や日輪文の銀象嵌があった。保存処理を委託された同研究所がX線撮影したところ、表面を覆うサビの下に模様を発見した。
実用性は乏しく、権威を示すためにつくられたとみられる。象嵌は朝鮮半島を経て伝わったとされ、鍛冶道具も半島製か、ヤマト政権下の渡来系工人が製作した可能性が高いという。
地下式横穴墓は南九州に特有で同墓群では166基が確認されている。最大規模の139号墓は未盗掘の状態で発見され、副葬品は約500点に上る。ヤマト政権から贈られたとみられる甲冑(かっちゅう)などと共に、近畿では類例がない半島製の銀装大刀も見つかった。
分析した鹿児島大学総合研究博物館の橋本達也准教授は被葬者について、鍛冶集団を統括した地域の首長と推察。「ヤマト政権と深く関わりながら、半島とも直接交渉した人物では」と話す。